多発性骨髄腫について
多発性骨髄腫について
多発性骨髄腫は、体内に入ってきた異物など、非自己とみなした物質(抗原)から体を守る形質細胞ががん化したことによって発症する病気です。骨髄で異常な細胞が無秩序に増殖するので、骨、造血機能、腎臓などにさまざまな症状(合併症)が出現します。
形質細胞と骨髄腫
多発性骨髄腫は、血液細胞の一種である形質細胞ががん化したことによって起こります。形質細胞は本来、ウイルスや細菌など、非自己とみなした物質(抗原)から体を守る働きを担っています。
血液細胞のリンパ球の中には免疫を司るT細胞とB細胞があり、B細胞は抗原を見つけると形質細胞に変わります。形質細胞は、抗体(免疫グロブリン)をつくってウイルスや細菌などの異物を攻撃し感染や病気から体を守っているのです。
形質細胞ががん化すると、抗原を攻撃しないばかりか、役に立たない抗体であるM蛋白(異常免疫グロブリン)が産出されます(図1)。同時に、がん化した形質細胞(骨髄腫細胞)が骨の中を中心に体のあちこちで無秩序に増殖し、さまざまな臓器の働きを障害します。
多発性骨髄腫でみられる症状
骨髄腫細胞の増殖によって、正常な血液細胞をつくる造血機能が低下し、血液中や尿中のM蛋白の増加、骨を壊す破骨細胞の活性化が起こります。そうなると、赤血球などの生成が抑えられ、感染への抵抗力が落ち、骨の破壊、腎障害などが進行します。そのため、多くの患者さんに、息切れ、だるさ、倦怠感、腰痛、食欲不振などさまざまな自覚症状が生じます(表1)。
多発性骨髄腫と診断された患者さんの中には、すぐに症状が現れない人もいます。ただし、骨髄腫の患者さんは感染症にかかりやすく、骨折しやすい状態になっていることが多いので、日常生活の注意点を医師、薬剤師、看護師に確認しておきましょう。
この病気は高齢者に多く、50歳ごろから年齢とともに患者数が増えていきます。病気の原因はよくわかっていません。一般的に、遺伝することはないとされています。
多発性骨髄腫の治療法は日進月歩です。今では、病気の進行や症状をコントロールしながら、長くつきあう病気になってきています。
タイプと病期(ステージ)について
多発性骨髄腫の診断では、血液や尿の中にあるM蛋白と形質細胞の量、症状が出ているかどうかによって、いくつかのタイプに分けられます。また、進行度を表す病期は、早期のⅠ期から進行したⅢ期まで3段階に分けられます。タイプと病期を調べることは、病気の経過予測、および治療方針を決めるために重要です。
多発性骨髄腫のタイプ
多発性骨髄腫は、M蛋白や骨髄中の形質細胞の量、臓器障害の有無によって、いくつかのタイプに分けられます(表2)。
無症候性骨髄腫は、血液や尿の中にM蛋白が一定レベル以上みられますが、症状や臓器障害はない状態です。意義不明のM蛋白血症(MGUS)は、異常な形質細胞によって産出するM蛋白が少ないレベルでとどまる病気で、無症状です。一般的に、無症状なら治療の対象になりませんが、血液検査などで、進行するリスクが高い骨髄腫診断バイオマーカー(表3)がある場合には、治療を開始することがあります。
CRAB※1症状と呼ばれる臓器障害である高カルシウム血症、腎障害、貧血、骨病変(骨の痛み、骨折など)のどれか1つでも出ている場合には、症候性骨髄腫と診断されます。多発性骨髄腫の患者さんのほとんどはこのタイプであり、治療が必要です。
一方、M蛋白はみられないものの骨髄腫の症状がみられる場合は非分泌型骨髄腫と診断されます。治療は、症候性骨髄腫と同じように行います。※1 CRABは、骨髄腫の代表的な症状である高カルシウム血症(hypercalcemia)のC、腎障害(renal
insufficiency)のR、貧血(anemia)のA、骨病変(bone lesion)のBをつなげた造語。
多発性骨髄腫の病期
多発性骨髄腫の病期は、病気の進行度や今後の見通しを表し、血液中のアルブミンとβ₂ミクログロブリンの数値によってⅠ~Ⅲ期まで3段階に分類されます。Ⅲ期が最も病気が進行した状態です(図2)。治療法を選ぶため、また今後の見通しを知っておくためにも、自分の病気のタイプや病期を知っておきましょう。
【骨髄腫の治療選択に関わる染色体異常とは】
多発性骨髄腫は、何らかの理由で起こった遺伝子や染色体の異常によって発症します。ヒトの細胞の核の中には23対46本の染色体があり、1~22番の常染色体と1対の性染色体で構成されています。多発性骨髄腫の患者さんにどのような染色体異常があるかは、骨髄検査で採取した骨髄液や組織を用いて調べます。
骨髄検査
骨髄液や骨髄組織を採取し、その中に含まれる骨髄腫細胞の数や形状、染色体異常などを調べる検査です。局所麻酔をして、腸骨(腰にある骨)に細い針を刺し、骨髄液を注射器で吸引する「骨髄穿刺」と、腸骨にやや太い針を刺して骨髄組織を採取する「骨髄生検」があります。染色体異常の種類は、採取した骨髄細胞を分裂させて出てきた染色体を固定して調べます。
染色体とは染色体は遺伝情報の発現と伝達を担う生体物質で、人間のすべての細胞には23対46本の染色体が入っています。1本の染色体には、生命の設計図である遺伝子が数百から数千含まれています。骨髄腫の場合、ほとんどの患者さんに、染色体がちぎれて欠如する欠失、ちぎれて他の染色体にくっつく転座などの染色体異常が検出されます。
高リスクの染色体異常
多発性骨髄腫では、少なくとも、17番染色体の欠失、4番と14番の染色体が入れ替わる転座、14番と16番の染色体が入れ替わる転座のどれかがあると病気が進行しやすいことがわかっています(表4)。これらの染色体異常は重複して起こることもあります。高リスクの染色体異常があるときには、より強い治療や治療期間の延長、治療薬などの選択を検討する場合があります。
【参考】改訂国際病期分類(R-ISS)
臨床試験などの際には、国際病期分類(ISS)の病期とLDH(乳酸脱水素酵素)の値、高リスクの染色体異常の有無によって病期が変わる改訂国際病期分類が用いられることがあります(表5)。
治療の流れについて
治療は、一般的に症状が出現し、症候性骨髄腫になった段階で開始します。症状がない場合には、定期的な検査を受けて様子をみます。治療には、自家造血幹細胞移植やさまざまなタイプのおくすりを組み合わせた薬物療法があります。多発性骨髄腫による合併症の治療も大切です。
治療を始める時期と症候性骨髄腫の治療法
多発性骨髄腫に対しては、一般的に、貧血、骨病変、腎障害、高カルシウム血症などの症状が出て、症候性骨髄腫と診断された場合に治療を開始します。症候性骨髄腫の治療は、患者さんの年齢、体力、持病の有無、臓器障害による症状によって異なります。
自覚症状のない無症候性骨髄腫や意義不明のM蛋白血症の場合、治療せずに定期的に検査を受けて経過をみることが基本です。ただ、進行するリスクが高い骨髄腫診断バイオマーカー(表3)がある場合には、症状が出ていなくても、早めに治療を始める場合があります。
65歳以下で、感染症や肝障害、腎障害、心臓や肺の機能に問題がなく、本人が希望した場合には、自家造血幹細胞移植と大量薬物療法を組み合わせた治療を行います。66歳以上、あるいは、持病があったり肝障害や腎障害があったりして、移植の対象にならない場合には、さまざまなタイプのおくすりを組み合わせた薬物療法を通常行います(図3)。
- 寛解とは
- 病気の症候や症状が一時的、あるいは継続的に消失した状態です。多発性骨髄腫では、血液と尿の中のM蛋白が免疫固定法という分析法では検出できなくなり、CRAB症状がなくなった状態を完全寛解(完全奏効、表8参照)といいます。完全寛解になっても、通常の検査では検出されない骨髄腫細胞がからだの中に残っている可能性があり、治癒とは異なります。
その他の骨髄腫の治療法と合併症の治療
孤立性形質細胞腫に対しては、病変の消失を目指して放射線療法を行います。通常、患部に、4~5週間で20~25回放射線を照射します。
また、多発性骨髄腫の治療では、骨病変、貧血、腎障害、高カルシウム血症、感染症など骨髄腫によって出ている合併症の改善も重要です。骨髄腫自体の治療によって症状が改善する場合もありますが、必要に応じて、骨髄腫の治療と合併症の治療を並行して行います。
肺炎、急性腎不全、高カルシウム血症などは緊急性が高い合併症なので、骨髄腫自体の治療よりも先に治療を行う場合があります。場合によっては合併症治療のための入院が必要になります。
- 標準治療とは
- 標準治療は、国内外のたくさんの臨床試験の結果をもとに検討され、専門家の間で合意が得られている現時点で最善の治療法です。日本血液学会が『造血器腫瘍診療ガイドライン』、日本骨髄腫学会が『多発性骨髄腫の診療指針』を作成し、多発性骨髄腫の治療法を標準化しています。
造血幹細胞移植について
造血幹細胞移植は、血液をつくる機能を回復させる治療法です。大量の薬物療法を行うと、骨髄中の正常な造血幹細胞もダメージを受けます。そのため、あらかじめ患者さん自身の血液から採取・凍結保存した造血幹細胞を、大量薬物療法のあとに移植して造血機能を回復させます。
自家造血幹細胞移植
大量の抗がん剤による薬物療法を行うと、骨髄腫細胞が障害されるとともに正常な造血幹細胞もダメージを受けます。そこで、あらかじめ患者さん自身から造血幹細胞を採取・保存しておきます。大量薬物療法のあと、その造血幹細胞を移植することにより造血機能を回復させる方法が、自家造血幹細胞移植です。
移植と大量薬物療法の併用は高い効果が期待できる半面、体への負担の大きい治療です。そのため、移植を受けられるのは、一般的には65歳以下で重篤な感染症がなく、肝臓、腎臓、心臓、肺の機能が十分に保たれているなどの条件を満たした人に限られます。
造血幹細胞の採取方法
末梢血の中には通常、造血幹細胞はほとんどありませんが、白血球を増やすおくすりG-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を注射すると、骨髄から血液中に造血幹細胞が出てきます。
アルキル化剤といったおくすりも併用されることがあります。また、骨髄から末梢血へ、造血幹細胞の遊離を促進させるCXCR4
ケモカイン受容体拮抗剤も使用可能です。造血幹細胞の採取は、血液成分採取装置を使って行い、移植に備えて凍結保存します。
赤血球など、残りの血液成分は体に戻します。
同種移植(ミニ移植を含む)とは
再発治療の選択肢の1つに同種移植という方法があります。これは、大量薬物療法後に、HLA(ヒト白血球抗原)のすべてか一部が一致したドナーの造血幹細胞を移植する治療法です。ただし、多発性骨髄腫に対する効果は確立されていないため、現段階では、臨床試験として実施すべき研究的治療に位置づけられます。
薬物療法について
多発性骨髄腫の薬物療法は、腫瘍細胞を消失させることを目標に行われます。薬物療法の内容や量は造血幹細胞移植の可否、年齢などによって異なります。長期間にわたって病状をコントロールするためには、できるだけ、標準治療を受けることが重要です。
移植を受ける人の治療法
大量薬物療法と自家造血幹細胞移植を組み合わせた標準治療を行います。まずは、複数の抗がん剤やさまざまなタイプのおくすりを組み合わせた薬物療法(寛解導入療法)を3~4コース行い、白血球を増やすおくすりを注射して、患者さん自身の造血幹細胞を採取し凍結させておきます。その後、大量の抗がん剤を投与し、自家造血幹細胞移植を行って造血機能を回復させます。腎障害が起こっている場合などでは、移植前の抗がん剤の量を調整する場合もあります。
移植を受ける人の導入療法では、プロテアソーム阻害剤、アルキル化剤、免疫調節薬、アントラサイクリン系抗腫瘍薬、ステロイドなどのおくすりを組み合わせて使います(表6)。
移植を受けない人の治療法
標準治療では、さまざまなタイプのおくすりを併用する薬物療法を行います。初回の治療では、プロテアソーム阻害剤、ステロイド、アルキル化剤、免疫調節薬、抗体薬などのおくすりを組み合わせて投与します。その後、休薬して様子をみるか、あるいは、維持療法としてプロテアソーム阻害剤、免疫調節薬、ステロイドなどのおくすりによる治療を続ける場合もあります(表6)。
高齢者、腎臓や心臓などに持病のある人は、その程度に応じておくすりの量を減らし、重い副作用が出ないように気を付けながら病状をコントロールすることが大切です。表7の「リスク因子」が1つ以上ある人や重度の骨髄抑制(白血球・好中球・血小板の減少、貧血)がある人は、ヨーロッパの専門家のグループがこれまでの知見からつくった基準などをもとに、段階的に、おくすりの量を減らします。
また、骨髄腫による合併症や患者さんの持病、体力、希望に応じて、おくすりの組み合わせや量を変えることもあります。
維持療法とは
維持療法は、初回の薬物療法によって得られた奏効状態を維持して、再発までの期間や生存期間を延ばす目的で行われる薬物療法です。移植を受ける人の場合は移植のあと、移植を受けない人は寛解導入療法のあと、維持療法を行うことがあります。それは、移植を受けたかどうかにかかわらず、維持療法が再発予防につながり生存率を改善するという報告があるからです。維持療法を行うかどうかやその期間は、再発リスク、年齢、患者さん自身の希望、生活スタイルによって判断します。
維持療法のメリットは、強力な導入療法よりもおくすりの数や強度を減らしながら奏効状態の維持を目指し、生存期間の延長が期待できることです。デメリットは、維持療法を行わずに経過観察を受ける場合と比べて、通院や検査の回数が多くなることです。維持療法は、定期的な通院は必要になりますが、最近では、治療薬の種類(プロテアソーム阻害剤、免疫調節薬など)、投与方法(経口剤、注射剤)や治療頻度(週1回、連日など)が異なる、さまざまな治療選択肢がでてきています。
初回導入療法と比べても治療負担の増えない選択肢もあります。
入院が必要な治療とは
多発性骨髄腫の薬物療法は、内服薬も多いため、一般的には、外来に通院する形で治療を受けることが多くなっています。
入院が必要になるのは、自家造血幹細胞を採取するときと移植を行うときです。また、治療の1コース目は、強い副作用が出ることがあるため、入院して治療することもあります。
【治療の効果を知りたいときに― 治療の効果判定について ―】
薬物療法の効果は、国際的な効果判定基準(2016年IMWG基準、表8)に基づいて判定します。効果判定の指標は、sCR(厳格な完全奏効)、CR(完全奏効)、VGPR(最良部分奏効)、PR(部分奏効)、MR(軽度の奏効)、SD(不変)、PD(病状進行)に分けられます。
効果判定のためには、血液中と尿中の両方の
M蛋白の検査が必要です。誤りがないことを確認するために、連続した2回の検査結果をもとに効果を判定することが推奨されています。ただし、sCR、あるいはCRかどうかを判定するための骨髄検査は1回でよく、複数回受ける必要はありません。
微小残存病変(MRD)陰性とは
多発性骨髄腫の治療の進歩によって、より深いレベルの奏効が得られる患者さんが増えています。MRD陰性は、顕微鏡ではわからない分子学的なレベルで、骨髄腫細胞が検出できないことを示します。2016年のIMWGで国際的なMRDの評価基準が追加されました(表9)。
症状(合併症)を改善する治療について
骨病変には、骨髄腫細胞を減らすための薬物療法と並行して、症状を改善する治療を行うことが大切です。
高カルシウム血症、貧血、腎不全、感染症、神経障害などの症状に対しても、それぞれ症状を軽減したり改善したりする治療が行われます。
骨病変
大部分の多発性骨髄腫では、診断時や再発時に骨がもろくなったり痛みが出たりする骨病変がみられます。その場合、抗RANKL抗体製剤の皮下注射、ビスホスホネート製剤の点滴投与によって骨の破壊を抑えます。腎障害のあるときには抗RANKL抗体製剤、あるいは減量したビスホスホネート製剤を投与します。どちらのおくすりも、あごの骨が炎症を起こし壊死する顎骨壊死を起こすことがあるので、事前に歯科医のチェックを受け、口腔ケアを行うことが大切です。また、低カルシウム血症を起こさないようにビタミンD製剤やカルシウム製剤の併用が必要な場合があるため、主治医の指示に従ってください。
骨折しているときや骨の補強が必要なときには、患部の骨を補強する手術をする場合もあります。脊椎の圧迫骨折がある人は、コルセットを着用すると、圧迫骨折の進行や痛みが軽減されます。また、痛みが取れない場合にはバルーン椎体形成術(BKP)という治療も開発されています。骨の痛みの治療には患部への放射線照射も有効です(表10)。
高カルシウム血症と腎不全
高カルシウム血症に対しては、生理食塩水を点滴して脱水症状を改善させるほか、カルシウムを尿へ排出させ心臓の負担を減らすために利尿薬を投与します。腎機能に注意しながらビスホスホネート製剤の点滴投与を行います。骨病変の治療薬である抗RANKL抗体製剤は腎障害のときにも投与可能で、効果の発現が早いので緊急時には有用です。
腎不全は多発性骨髄腫の治療で回復する可能性があるので、できるだけ早く標準的な治療を開始します。腎機能を回復させるためには、水分を多めに摂取します。腎機能がかなり低下しているときには、一時的に人工透析を行うことがあります。
貧血と感染症
貧血がひどいときは赤血球の輸血を行います。腎機能の低下による貧血には、赤血球を増やすおくすりを注射することもあります。
感染症の対策として、肺炎球菌ワクチンの接種、インフルエンザの流行時期にはインフルエンザワクチンの接種が推奨されています。プロテアソーム阻害剤の治療や造血幹細胞移植を受けるときには帯状疱疹を発症しやすいため、抗ヘルペスウイルス薬を投与します。
神経障害と過粘稠度症候群
脊髄圧迫による知覚障害や運動麻痺が起こったら、できるだけ早く放射線照射とステロイド治療などの処置、場合によっては緊急手術を行います。過粘稠度症候群は、M蛋白の増加によって血液がドロドロになった状態で、めまい、頭痛、目が見えにくくなるといった自覚症状が出ます。M蛋白の急速な除去が必要なときには、M蛋白を含む血漿を除去し、健康な人の凍結血漿を入れる血漿交換を行います。
薬物療法の副作用について
薬物療法による副作用には、自分で気づくことのできるものと検査でわかるものがあります。副作用を軽減する治療も大きく進歩しています。いつ頃、どのような副作用が出やすいのか、どういうときに医師、薬剤師、看護師に相談したらよいのかを知っておきましょう。
薬物療法で出やすい副作用と出現時期
多発性骨髄腫の薬物療法は効果がある半面、ほとんどの人に副作用が出ます。治療で使うおくすりによって出やすい副作用は、手足のしびれ、吐き気・嘔吐、便秘、食欲不振、骨髄抑制(白血球・好中球・血小板の減少)、口内炎、下痢、湿疹などです(表11)。
患者さんによって、症状の出方や出現時期には個人差があります。一般的に、点滴による抗がん剤投与の最中や直後に出やすい副作用は、アレルギー反応(血圧低下、呼吸困難)、吐き気・嘔吐、血管痛などです。
治療後も食欲不振、倦怠感、口内炎や下痢、骨髄抑制、手足のしびれ、脱毛などの副作用が出ることがあります。まれではありますが、間質性肺炎、血栓症が起こることがあります。おくすりにより副作用の種類と出方に大きな違いがあります。
自分で気づくことのできる副作用
骨髄腫の治療で特に注意したいのが、手足のしびれです。漢方薬などで改善することもありますが、おくすりの量を調節したり、おくすりを変更したりする必要があります。手足のしびれ、ピリピリ感、ボタンが留めにくいなどの症状があったら、早めに医師に伝えましょう。
治療開始から12
~72
時間後に、排尿がまったくできなかったり量が減ったりしたときには、腎不全の悪化につながる腫瘍崩壊症候群を起こしているおそれがあります。また、38度以上の発熱・悪寒、呼吸困難、動悸や息苦しさ、空咳が続く、片足だけむくむ、下痢がひどく水分がとれないといった症状があるときには、治療を受けている病院へできるだけ早く連絡することが重要です。
一方、吐き気や嘔吐などの副作用はおくすりでかなり軽減できるようになってきています。副作用をおそれて薬物療法を敬遠したり、飲み薬の服用を勝手に中断したりしないようにしましょう。
なお、使用するおくすりによって現れる副作用は異なりますので、医師、薬剤師、看護師に確認しておきましょう。
治療中の注意点
骨髄抑制は自覚症状がないことが多いのですが、治療中は感染症になりやすく、けがも治りにくくなるので、こまめな手洗い、うがい、人込みを避けるなどの感染症対策やけがの予防を心がけましょう。
副作用には、我慢せずにすぐに病院へ連絡したほうがよいものがあります。薬物療法を始める前に、どういうときに病院のどこへ連絡すべきか、休日や夜間の連絡先も含めて確認しておくことが大切です。
治療後の生活は(再発・再燃について)
薬物療法がひと通り終わって病状が安定したら、元通りの生活を続けながら、定期的に検査を受けることになります。生活面でどのような点に注意したらよいのかも確認しておきましょう。多発性骨髄腫は再発・再燃することが多い病気ですが、再発・再燃に対する治療も進歩しつつあります。
治療後、病状が安定している間の定期検査
治療によって骨髄腫細胞やM蛋白が消失し、貧血や骨病変などの臓器障害の進行が認められない状態になったら、一般的には、定期的な検査を受けながら経過をみます(表12)。病院にもよりますが、病状が安定している間は4~6週間ごとに受診し、血液検査と尿検査でM蛋白の量、腎臓や肝臓の機能、造血機能などをチェックします。骨髄穿刺、骨のレントゲン検査、MRI(磁気共鳴画像)検査やCT検査は必要時に実施します。ただし、骨の痛み、発熱などの症状やいつもと違う症状が出たときには、次の定期検査を待たずに、すぐに受診しましょう。
ビスホスホネート製剤や抗RANKL抗体製剤の投与を受けている場合には、口腔ケアもかねて、定期的に歯科医の診察を受けてください。
日常生活の注意点
多発性骨髄腫の患者さんは、治療後も感染症になりやすく、骨がもろくなっている場合があります。感染症の予防を心がけ、骨にあまり負担をかけ過ぎにないようにしましょう。ただ、まったく運動をせずに安静を続けていると、筋力が落ち、骨もさらにもろくなってしまいます。ウォーキングなどで、無理をしない程度に体を動かしましょう。どの程度の運動をしてよいかを医師に確認しておくことも大切です。
また、腎臓への負担を軽減するため脱水にならないように水分を多めにとりましょう。
再発・再燃とは
治療によって減少し活動性が低くなった骨髄腫細胞、M蛋白が再び出現することです。国際的な基準では「M蛋白再発」と「臨床的再発」という段階があります。一般的には、この基準を用いて判断します。多発性骨髄腫では、治療によって病状が安定しても、再発・再燃に注意が必要です。
再発・再燃したときの治療法
再発・再燃後の治療法は、前の治療終了時から再発・再燃までの期間によって異なります。12ヵ月以上経ってから再発・再燃した場合には、移植も含めて、効果のあった最初の治療を行うこともあります。
比較的早い段階で再発・再燃し、M蛋白の増加、貧血や骨病変の進行がみられるときには、プロテアソーム阻害剤、アルキル化剤、免疫調節薬、抗体薬、アントラサイクリン系抗腫瘍薬、ステロイドなどを併用し、これまで使っていないおくすりの組み合わせによる薬物療法を行います。再発・再燃治療でも、骨髄腫による合併症に対する治療を行うことが重要です。
再発・再燃しても治療をすれば、多くの患者さんは、骨髄腫細胞やM蛋白が減少し病状が安定します。
【次の治療を始めるときに―再発の判断基準について―】
多発性骨髄腫の国際的なガイドライン(2014年版IMWG)による再発の基準には以下の段階があります(表13参照)。
M蛋白再発(Paraprotein relapse)
CRAB症状はないけれども、M蛋白の値が一定以上上昇している状態です。生化学的再発(Biochemical relapse)と呼ばれる場合もあります。
臨床的再発(Clinical relapse)
CRAB症状の再発がある状態です。
一般的には、症状がなくてもM蛋白の上昇を放置すれば、CRAB症状などの再発につながります。また、M蛋白の上昇の仕方やCRAB症状の出現時期は、患者さんによってさまざまです(図5)。
どの時点で再発治療を開始するかは、患者さんの年齢、体力、持病の有無、臓器障害、検査数値の上昇の仕方などから総合的に判断します。CRAB症状が出る前に再発治療を開始したほうが治療の効果は大きく、患者さんの生活の質(QOL)を落とさずに、次の再発までの期間を遅らせられることができるという報告もあります。そのため、最近では、臨床的再発になる前、つまり、M蛋白再発の段階で再発治療を開始することが多くなっています。
ただし、患者さんの病状や治療状況によっても異なりますので、ご自身の状況については主治医とご相談ください。
多発性骨髄腫の国際的なガイドライン(2014年版IMWG)による再発の基準には以下の段階があります(表13参照)。
M蛋白再発(Paraprotein relapse)
CRAB症状はないけれども、M蛋白の値が一定以上上昇している状態です。生化学的再発(Biochemical relapse)と呼ばれる場合もあります。
臨床的再発(Clinical relapse)
CRAB症状の再発がある状態です。
一般的には、症状がなくてもM蛋白の上昇を放置すれば、CRAB症状などの再発につながります。また、M蛋白の上昇の仕方やCRAB症状の出現時期は、患者さんによってさまざまです(図5)。
図5 人によって異なる再発までの経過
拡大してみる
どの時点で再発治療を開始するかは、患者さんの年齢、体力、持病の有無、臓器障害、検査数値の上昇の仕方などから総合的に判断します。CRAB症状が出る前に再発治療を開始したほうが治療の効果は大きく、患者さんの生活の質(QOL)を落とさずに、次の再発までの期間を遅らせられることができるという報告もあります。そのため、最近では、臨床的再発になる前、つまり、M蛋白再発の段階で再発治療を開始することが多くなっています。
ただし、患者さんの病状や治療状況によっても異なりますので、ご自身の状況については主治医とご相談ください。
医療費の自己負担を軽減するには
多発性骨髄腫の治療では、月の医療費の自己負担額がかなり高額になることがありますが、公的医療保険には、医療費の自己負担を軽減する高額療養費制度という仕組みがあります。
高額療養費制度とは
保険診療による医療費の家計費負担が重くならないように、医療機関や薬局で支払う患者さんの医療費の自己負担額を軽減する制度です。1ヵ月の医療費が上限額を超えたときに、この制度が利用できます。上限額は、年齢と所得によって異なります。
多発性骨髄腫の治療を受ける病院の窓口での自己負担額を上限額の範囲内で済ませるためには、あらかじめ、「限度額適用認定証」を提出する必要があります。限度額適用認定証は、加入している公的健康保険の窓口で入手できます。限度額適用認定証を提出していない場合には、後日、上限額を超えて支払った分が公的医療保険から払い戻されます。高額療養費の払い戻しには、申請が必要な場合があります。
詳しいことは、加入している公的医療保険にお問い合わせください。
経済的に困ったときには
治療を受けている病院の相談窓口、あるいは、最寄りのがん診療連携拠点病院の相談支援センターで相談しましょう。相談支援センターでは、仕事と治療の両立などをサポートする就労支援も行っています。
多発性骨髄腫患者さんのための医療制度について(多発性骨髄腫の情報サイト内)
多発性骨髄腫治療を受ける患者さんが安心して治療を受けられるように、治療にかかる費用およびその費用に対する各種給付制度などについて、解説しています。